11月6日、龍谷大学の石田徹教授にお招きいただき、政策学部の講義で介護保育ユニオン代表の森が講演しました。龍谷大学のHPでも紹介されています(『【政策学部】政策学部 特別公開講義「介護・保育の労働現場に何が起こっているか」を開催』)。講演では、介護・保育の現場の劣悪な労働環境をご紹介し、現場から見る介護・保育業界改善の論点も提起しました。

 講演内容をこちらのブログでもご紹介します。

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Ⅰ 介護・保育業界の現状~劣悪な労働環境と低賃金の改善が必要

〇介護・保育業界の劣悪な労働環境の放置は、サービスの質の悪化に直結する

 介護・保育業界では、労働基準法違反の横行し、長時間かつ過密な過重労働が蔓延するなど、劣悪な労働環境が広がっています。

 介護も保育も、利用者の命を預かる仕事ですから、ただでさえ、心理的肉体的負荷が高い職業です。それに加え、劣悪な労働環境があれば、現場で働く人の疲労も大変なものです。劣悪な労働環境が放置されれば、利用者への対応がぞんざいになる、事故などのミスの発生率があがるなど、サービスの質が悪化することになってしまいます。

 施設にとっては、一度の事故でも、利用者の子どもや高齢者にとっては、たった一つの命と人生です。重大な事故であれば、それが利用者の身体や生活に与える影響は非常に大きいものになります。高齢者が事故により大腿骨を骨折すれば、一生歩くことが不可能になることもあります。子どもの場合でも、うつぶせ寝による窒息によって障害を負ってしまったり、死亡してしまった事例も報告されています。また、長時間労働・パワハラにより職場環境が働いている人にとって、非常にストレスフルになり、利用者についつい当たってしまうこともしばしばあります。私の経験した相談の中には、本人の自覚なく、虐待に至っているケースもありました。

〇低賃金の放置が、担い手の減少を招いている

 厚労省の平成26年賃金構造基本統計調査では、全産業の平均月給は約33万円です。しかし、介護・保育業界では、介護の福祉施設職員の平均月収219.7千円=約22万円(平均年齢39.5歳、勤続5.7年)、保育士の平均月収216.1千円=約22万円(平均年齢34.8歳、勤続7.6年)と、全産業に比べると10万円近く低い状態です。

 これはあくまで平均値ですから、実際にはさらに低い給料の労働者が多数います。私たちに寄せられている相談ですと、介護・保育ともに月給15~18万円台が多いです(新卒だと手取りで12万程度の保育士も!)。10年以上の勤続でも月給30万には届かないところがほとんどです。これでは家族も持つことができません。

 過酷な労働に加え、この低賃金が、担い手不足を加速させていると思います。

 現場で人手不足のために現場に過密労働はいつまでたっても改善されず、悪くなる一方です。まともなケアが行えない事業所ならば、介護・保育の仕事を続けられない人も出てきて当然です。

 つまり、まともな介護・保育を実現するためには、「労働環境=過酷労働やパワハラ等」と「低賃金」の問題の改善が必要ということだと思います。

Ⅱ 現状を改善するために必要な制度改革とは

 介護・保育ユニオンとして現場で取り組む中で見えてきた制度改革の論点を3つ提起します。

1 監査の方式・内容の改革

抜き打ちの監査の実施

 介護・保育の事業所のうち、自治体が設置している事業所に対しては、自治体が監査を行っています。しかしこの監査は、事前予告であるものが主で、悪質な事業者は監査の時だけ、違法な状況を隠してしまうのです。

 介護の方は、神奈川県川崎市の介護付き有料老人ホームで入所者の男女3人が転落死した事件などを受け、ガイドラインを改正し、一部抜き打ちで監査するようになっています(2016.3.8「介護施設、通告なく指導 虐待早期発見へ、厚労省」産経新聞)。

 保育の方でも、子どもの命にかかわる内容がある場合は、市町村の判断で抜き打ち監査をする特別指導監査というものがあります。

 しかし、これらは虐待などまさに緊急の時にしか機能していません。施設では、虐待がまさにそこで行われていなくても、人手不足から法律で定められた配置基準に満たない状態になっていたり、普段のケア業務でずさんな対応になってしまっている場合もあります。それらの抜き打ち監査は行われていないのが実態です。当ユニオンには、配置基準に満たない人員しかいないことを役所に言っても、それを抜き打ちで見に来てくれないので摘発されない、といった声が寄せられています。

 配置基準違反がないかなどの場合でも、きちんと抜き打ち監査を実施することが必要であると、私たちは考えています。

労働環境を監査項目にすべき

 また、監査は「介護保険法」や「児童福祉法」などが主な監査項目です。労働基準法違反等は監査の項目になっていますが、行政の職員は労働の専門家でありませんから、基本的に「労働環境」に関しては指導ができません。

 福祉サービスの質にとって、労働環境は非常に重要です。まずは労働基準法違反について厳しく監査すること、長時間労働に関する規制を設け、これを行政が監査することが必要と考えています。こうした観点がなければ、監査も不完全と言わざるを得ないでしょう。

2 職員配置基準の改革 

 現在の職員配置基準は福祉サービスの質を守るギリギリの人数を設定したものですから、現場の労働者が負担なく働けるような基準ではありません。

 例えば、特別養護老人ホームでは、「看護職員又は介護職員を、常勤換算で、入所者:職員=3:1以上の比率で配置すること」とされています。しかし、24時間の間、常に3:1の割合で職員がつくことは義務付けられておらず、3:1の割合になっていない時間帯があります。また、夜勤では2ユニット利用者18人に対して職員1人などになることも多いようです。介護度など利用者個人の状況によっては、利用者対応だけでも手が足りず、休憩や仮眠などとても取れない状態です。

 保育も同様です。認可保育所では、「0歳児:概ね3人に保育士1人、1、2歳児:概ね6人に保育士1人、3歳児:概ね20人に保育士1人、4、5歳児:概ね30人に保育士1人」という基準があります。これらは最低配置基準なので、これ以上の配置も可能なのですが、現実にはこの基準ぎりぎりの保育所がほとんどです。保育を守るための基準ぎりぎりの保育士数では子どもを十分に保育できない、というの現場の保育士たちの実感です。

 また、この配置基準は経験年数を問いません。保育士経験0年目でも10年目でも「1人」扱いです。保育士の資格があっても、実際に保育に入るとなると、数年間の経験が必要です。保育の質を考えるのであれば、すべて新人の保育士ということはありえないはずです。

 行政から施設に給付される補助金や介護報酬のうち、人件費として割り当てられる額も、基本的にこの配置基準に基づいています。施設の運営費のほとんどは人件費に充てられます。人が必要でもお金の問題で人が増やせない事業所もあるのです。

 私たちは、現場の実態に合わせて配置基準を作りなおすことが必要と考えています。具体的には、①休憩時間が取れるなど労働基準法が守られるのに十分な人員基準に改めること、②人員配置基準に実務経験年数などの要件を加えること、の2点が必要と考えています。

3 行政からの補助金の使途への規制強化

 もともと介護・保育は、国が福祉政策の一環として提供するサービスでした。しかし、2000年それが崩されました。介護では介護保険制度が開始され、保育では認可保育所の設置主体の制限が取り払われ、営利が業界に持ち込まれたのです。営利法人参入は業界を大きく変えました。具体的には、「利益」重視の運営のために、人件費が削られるということです。

 保育所の例をあげます。保育所の補助金は想定される使途ごとに積算され支給されます。人件費相当分は全額の70%程度と言われています。社会福祉法人などが運営する保育所では、実際にこのような割合になることが多いようですが、株式会社はなんと40%代なのです(『待機児童対策、盲点 運営株式会社「人件費7割なら赤字」 保育士に届かぬ補助』毎日新聞2016年10月16日)。この毎日新聞の記事には「株式会社の経営者は『長期的な経営の安定のためにはある程度資産を蓄えておきたい』と本音を語り、『一番安心な投資先は国債。国債を買っている事業者は他にもある』と打ち明ける」という明け透けな発言も紹介されています。

 なお、補助金の使途にはもともと縛りがありましたが、1987年からは一定の要件を満たせばある程度自由に使えるようになっています。
 介護保育ユニオンは、行政からの補助金の使途に一定の縛りを作るべきと考えています。

 

 介護・保育ユニオンは、現場で働く保育士や介護士が現場で感じる疑問から出発して、今後も業界の改善のための取り組みの政策を作っています。より多くの組合員が集まれば、これらの制度改革を実現できるはずと考えています。介護士や保育士、または学生の方、一緒に業界改善を行っていきませんか?ご興味のある方はお気軽にお問い合わせください。また、業界改善についての論点等、ご意見がある方もお気軽にお声をお寄せください。

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